名詞・形容詞(1)
第2章 語形変化
1.格変化
《性、数、格》
- サンスクリットには3つの性(gender)[男性、女性、中性]、
3つの数(number)[単数、両数、複数]、
8つの格(case)[主格、対格、具格、為格、従格、属格、処格、呼格]があります。
[49項、ここから以下はまんどぅーかが補ったものです]
他の多くの性を有する言語と同様に、
性(gender)というのは純粋に文法的なものであり、
「家」「船」など性のあるはずのないものや抽象的概念なども、
文法的に、
男性(masculine)、
中性(neuter)、
女性(feminine)のうちのどれかに属します。
性のある自然物の場合はその自然の性と文法上の性はおおむね一致しますが、
まれに異なることもあります。
形容詞は修飾する名詞
(述語となっている形容詞の場合は主語の名詞)
の性・数・格と一致しなければならないので、
男性形、女性形、中性形のすべての形を持ちます。
数(number)のうち、単数(singular)は1つ、
両数(dual)は2つ、
複数(plural)は3つ以上に使います。
格(case)の基本的な用法は次のとおりです。詳細は演習題の解答解説中で順次説明します。
- 主格(nominative)……主語(〜は、が)。
述語も原則として主格になります。
- 対格(accusative)……〜を。
- 具格(instrumental)……〜によって。
- 為格(dative)……〜のために、〜に。
- 従格(ablative)……〜から。
- 属格(genitive)……〜の。
- 処格(locative)……〜で。〜にて。
- 呼格(vocative)……〜よ。
《多語幹をもつ名詞・形容詞》
- 名詞および形容詞は、母音で終わるものと子音で終わるものとによって変化のしかたが異なります。
母音で終わる名詞・形容詞のいくつかと、子音で終わる名詞・形容詞のほとんどは、
語幹が発音変化をして2種類の語幹
[強語幹(strong stem)、
弱語幹(weak stem)]を持ったり、
3種類の語幹[強語幹、中語幹、弱語幹]を持ったりします。
2語幹の男性・女性名詞(形容詞)では、単数と両数の主・対・呼格、
複数の主・呼格では強語幹を用い(強格)、
その他の格はすべて弱語幹を用います(弱格)。
3語幹のときは、上記の弱語幹がさらに中語幹と弱語幹とにわかれ、
単数の主・対格、両数の主・対・呼格、複数の単数の主・対格ではおおむね強語幹を、
いくつかの場合の単数呼格と、子音で始まる語尾では中語幹を(中格)、
母音で始まる語尾では弱語幹を用います(弱格)。
また、単数主格のみに強語幹を用いる場合もあります(
70、
81、
90)。
中性の主・対・呼格は、単数では弱語幹(3語幹のときは中語幹)、
両数は弱語幹、複数は強語幹を用います。
それ以外の格は男性・女性と同じです。
※この項については次の
「格変化の語尾の一般形」
(→変化表)
の表を参照してください。
備考 このように語幹に強(中)弱があるのは、
動詞の場合同様に、アクセントの位置に関係します。
強語幹、中語幹の格ではアクセントは語幹にありますが、
弱語幹ではアクセントは語尾にあります。
しかしこのような原則はヴェーダ時代にすでに乱れており、
中古のサンスクリット文ではますます複雑になりました。
たとえば呼格は、
文章や詩句の冒頭では必ず第一音節にアクセントがありますが、
それ以外ではそうではありません。
《格変化語尾の一般形》
- 格変化の語尾の一般形は次の通りです。
(省略します。
→変化表を見てください)。
単数呼格はたいてい語幹そのものを用いますが、
主格を用いる場合もあります。
両数呼格と複数呼格は必ず主格と同じになります。
中性単数主格・対格は、語幹が
で終わる場合に
という語尾をつける以外では、語尾がありません。
- 母音で終わる語幹の場合は、いろいろな例外的な語尾が登場します。
で終わる語幹は特にそうです。
語幹の母音がや
に変化する格があったり、
単数従格語尾は、
単数属格語尾は、
複数具格語尾はとなります。
備考 語尾はすべての語幹について単数従格を作ります。
(賊)→、
(知識)→、
(水)→、
(王)→、
語尾は代名詞について従格を作ります。
(あそこに)。
(I)母音で終わる語の格変化
《、で終わる語幹》
- で終わる語幹の男性。
(省略します。
→変化表を見てください)。
中性も同様ですが、単数主格、両数主・対・呼格、複数主・対・呼格が異なります
(省略します。
→変化表を見てください)。
- で終わる語幹の女性。
(省略します。
→変化表を見てください)。
- (母)の単数呼格はを用います。
(→変化表)
- で終わる形容詞には、代名詞の変化法に従うものがあります
(→113)。
まんどぅーかのコメント
- 49項は、原著では性・数・格を列挙しただけで一切用法の説明がありませんので、
上記のように、性・数・格の基本用法の説明を49項の末に加えました。
なお、原著では格については「用語の解」という部分で簡単な説明があります。
- 54項は、原著で欠番になっています。
原著では53項と55項の間に次ページの演習1が入るので、
それを54項と数えているのかもしれませんが、
他の部分では演習を項目に数えているわけではありませんので不統一ですね。