複合法


    4. 複合法

    1. 動詞の複合

  1. 動詞は接頭語や副詞と合成することができ、 これによってその動詞の意味はさまざまに変化します。
     接頭語は、
    • ……越えて、過ぎて、増して
    • ……上に
    • ……したがって、沿って
    • ……中間に、内部に
    • ……離れて、遠く
    • ……に向かって、まで
    • ……下に、彼方に
    • ……まで、方へ
    • ……上に、外に
    • ……近く
    • ……下に、中に
    • ……外に、〜なく
    • ……かなたに
    • ……周りに
    • ……前に、前方に
    • ……〜に対して、彼方に
    • ……分離して、離れて
    • ……一緒に、共に、全く
     副詞はたとえば、 (十分に)ととで(飾る)、 (下に)ととで(沈む)、 (明らかに)と(なる)とで(明らかになる) のようなものです。
  2. 語根(ある)、 (する)、 (なる)の直前には、名詞や形容詞を加えることができ、 このようにしてできた複合語の意味は 「〜がある」「〜をする」「〜になる」となります。
     で終わる語幹はそのに変え、 で終わる語幹はその母音を長母音化し、 で終わる語幹はそのに変えます。 (白い)は(白くする)、 (清浄な)は(清浄になる)、 (やわらかい)と(の能願単3)は(彼はやわらかくあるべし)、 (母)は(母になる)、 (灰)は(灰となる)。

    2. 名詞の複合

  3. 複合語の前半は語幹の形です。 もし多語幹名詞であれば中語幹または弱語幹(→50)を用います。 (王)のようなで終わる語幹のときはのように語尾をにします。 また106を参照すること。
  4. 同格限定複合語 (242)、 および所有複合語(245)の前半では、 (大いなる。→80) のかわりにを用います。 複合語の後半では、 異なる変化をする語がしばしば型に変わることがあります。 (眼。→63)は(夜)は(友。→61)は(日。→85)はまたは(王)は(道。→88)は(心。→91)は(輝き)は
     時として反対に変化することがあります。 (香り)は(牛)は複合語のはじめにあって母音の直前にある場合はとなり、 語末にあるときはまたはとなります。

    1. 並列複合語

  5. 並列複合語(相違釈(そういじゃく。))というのは、 複合語中の各成分が等位関係にある複合語をいいます。 各語を連結したり(〜と。copulative)、 各語のどれかを選び取る(〜または。alternative)意味を持ちます。 この複合語は、 (1)語中の各成分が二個またはそれ以上の多い数を表すかにしたがって、 両数または複数になる、 (2)または中性単数の形になります。
     (1)(ハリとハラ)、 (楽と苦)、 (もろもろの天と人)、 (もろもろの人と馬と車と象と)、 (ソーマ(月神)と火と日と水と風との)。
     (2)(寒さと熱さ)、 (蛇とナクラ(いたちのような獣))、 (ぶよと蚊)、 (しらみとはえと南京虫) (勝ちか敗け)、 (二十か三十)。
  6. で終わる語 (→6970)は、 次の語がまたは(子)で終わるときには、 複合語の前半として単数主格形を用います。 そして各成分はみな親縁または同僚の人を表します。 (母と父=両親)、 (父と子)、 (供養者と洗浄者)。 神の名は複合語が2つからできているときは、 その前半でも両数形をとることがしばしばあります。 (アグニとソーマ)、 (ミトラとヴァルナウ。の昔の両数形)。

    2. 限定複合語

  7. 限定複合語(依主釈(えしゅじゃく。))というのは、 後半が前半によって限定される複合語をいいます。
     狭義の限定複合語は、前半が後半に対して格の関係を有するものをいいます (格限定複合語)。たとえば、 (村へ行った)の前半は対格、 (天から授けられた)の前半は具格、 (天から落ちた)の前半は従格、 (王の子)の前半は属格です。
  8. 限定複合語の前半は格変化した形になっていることがあります。 (声を制して=黙って)、 (天の主)、 (蓮の上に憩う)。
  9. どの語根も合成語の最後になることができ、 そして能動態現在分詞の意味になります。 (ヴェーダに通じている)、 (食べる)。
     短母音の場合にはを加えます。 (勝つ)→(一切に勝った)、 (作る)→(世界を作った者)のように。
     もし男性または中性名詞を形容する複合語の語根がで終わる場合は、 そのを短縮します。 (住む)→(近くに住んだ)のように。
  10. 限定複合語の前半が形容詞、副詞またはその類であり、 後半を制限するときは、 同格限定複合語(持業釈。じごうしゃく、じごっしゃく)といいます。 (馴れた象)、 (最高の喜び)、 (きわめて長い)、 (はなはだ激しい)、 (なされない)、 (中方)、 (不正形)。
  11. この複合語の前半はしばしば名詞のことがあります。 特に比喩をあらわすときにはそうです。 (花+やわらかい=花のようにやわらかい)、 (雷+はげしい=雷のようにはげしい)、 (カイラーサ(クベラ神およびシヴァ神が住む山の名)+白い=カイラーサのように白い)。
     さらに後半も名詞であるときは、前半は比喩されるもの(実体)、後半は比喩するもの(比喩表現)です。 (人+獅子=人の獅子=獅子のような人)、 (牡牛のような王)、 (獣のような人)、 (宝のような少女)、 (アナンガ(恋愛の神)+蛇=蛇のようなアナンガ)、 [kaalaharin3a(時+かもしか=かもしかのような時(かもしかが走るように時が早く過ぎることをいう))もまたこの合成語の中に入ります。
  12. 複合語の前半が数詞で、語全体の形が中性あるいはで終わる女性名詞のときは、 これを帯数釈(たいすうじゃく。数量限定複合語。)といいます。 (三夜。→236)、 または(三界)、 または(五牛。→236)。

    3. 所有複合語

  13. 所有複合語(多財釈(たざいじゃく)/有財釈(うざいじゃく)())とは、 最後が名詞または名詞の意味で用いられている形容詞であり、 全体が一つの形容詞として用いられている限定複合語をいいます。 この複合語は「持つ」「有する」という意味を表します。 (長い腕の)、 (喜ばしい顔をした)、 (沈黙の戒を受けた)、 (にぶい理解力の)、 (実りのない)、 (終わりのない)、 (憂えている)、 (翼のある)、 (思惟を最上の目的とした=思惟に専念した)。
  14. 所有複合語は形容詞と同じ作用があるために、 一緒に用いられた名詞の性に従ってその性がきまります。 ですからで終わった女性の所有複合語が男性・中性名詞にかかるときには、 語尾をとします。 (少し知った)は(知)から、 (二枚舌の)は(舌)から、 (多くの幻術をもった)は(幻術)から、 (妻を伴った)は(妻)から来ています。
     この複合語の全体にという接尾語をつけることがあります。 (多くの夫を持った)、 (広い胸を持った)、 (益のない)、 (アグニ神と一緒の)。
  15. 「手」という意味の語は複合語の最後に来ると「〜を手に持った」という意味になります。 (器を手に持った)、 (杖を手に持った)。

    4. 不変化複合語()

  16. 不変化複合語(隣近釈(りんごんじゃく)。副詞複合語)とは、 前半が不変化辞で後半が名詞である副詞的複合語をいいます。 この複合語は中性単数対格の形をとります。 (瞬間ごとに)、 (疑いなく)、 (欲にしたがって)、 (規定にしたがって)、 (毎日。→226)、 (謙遜に)、 (急に。(女)(急速)から)、 (布施を先として)。