[サンスクリットページ参考書]

日本語で書かれた参考書

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  1. 初等文法書(伝統的な文法順)
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    榊亮三郎『解説梵語学』→『新修梵語学』
    1907.京都真言宗高等中学校→1973.永田文昌堂.ISBN4-8162-1121-7.A5-220ページ+語彙120ページ(1冊になっている).3150円(税込).
     次の『実習梵語学』と並んで古い教科書ですが、1973年に種智院大学の工藤成樹氏によって日本語の部分が書き改められ、今でも現役の本となっています(書店サイトのデータベースでは、著者は工藤成樹氏のほうで扱われている)。私がもっているのは2003年の12刷ですから。表紙は深緑色。次の『実習梵語学』よりは明るいかな。なお、『解説梵語学』時代の本は国立国会図書館近代デジタルライブラリに登録されているのでネット上で無料閲覧できます
     語彙集はもちろん練習問題も選文もあり、答えまでついているので、独習も可能です。ただ、どうせ新修したんならもうちょっと平易な文にすべきだったし、 「父音」を「子音」と書き改めたところとそうでないところとの不統一が、のっけのp.1からあったりするんで、そのうち再度新修が必要になるのかもしれません。
     それから、ローマナイズがちょっと特殊で、ṛ、ṝ、ḷをそれぞれṛi、ṛī、ḷiのように書く流儀なんで注意してください。あとはśがçとなります。まあローマナイズはいろんな流儀があっていいんですが、どうせ新修するならこういう点も他とあわせりゃよかったのに。
    ブックマーク=#ogjs

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    荻原雲来『実習梵語学』
    1916.丙午出版社→明治書院.A5-187ページ+語彙69ページ.絶版
     Stenzler "Elementarbuch der Sanskrit-Sprache"を荻原雲来が翻訳して、この7年前に同じ丙午出版社から『梵語入門』という題で出しました(国立国会図書館近代デジタルライブラリに登録されているのでネット上で無料閲覧できます)。『梵語入門』は12ページに及ぶ膨大な正誤表がついているほど誤植が多く粗製乱造の観がありましたが、それをすべて直して巻末の読本を大幅増補したのが本書です。
     丙午出版社はその後(1934)明治書院に買い取られたので、以後の版では「明治書院」となっています。左の写真は「丙午出版社」時代の珍しい本。表紙に「ドクトル 荻原雲来」なんて書いてあるのが時代を感じさせます。1918年の再版で1円70銭って書いてますね。私の近所の図書館に常時置いてある(誰も借り手がないようだ)ものは、1977年の30版で1800円となってます。それは緑色の表紙で、灰色の箱に入ってます。
     もちろん今は絶版ですが、古本が今でも仏教専門書店で5000円くらいで出ています。左のやつは神保町の東陽堂書店で4000円で入手しました。いろいろ書き込みがあるのと箱が傷んでいるのでそういう値段なんでしょうが、安い買物をしました。
     往年の定番教科書ですが、あまりに格調の高すぎる文語体で書かれているため、「今日根本的な書き改めを必要としている」(ゴンダ文法の訳者序)とか「あまりにも晦渋であるので、ゴンダ文法が出てからは、その存在理由を失った」(上村勝彦。大修館「言語」82.5 p.93)とか、まあ評判悪いですね。でも、説明は簡潔で要を得ているし、練習問題も選文も豊富(答えはナシ)だし、デーヴァナーガリーのみならずいわゆる梵字の表まであって便利だし、語彙集が別冊で便利(逆に紛失の危険も!?)だし、それこそ「根本的な書き改め」をして換骨奪胎新装版を出せば、けっこう役に立ついい本になるんじゃないでしょうか。
     そういう発想で作ったのが、当サイトの文法概説 よみがえれ実習梵語学です。ここで内容を見ることができますのでぜひご覧ください。
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    岩本裕『サンスクリット文法』
    1956.山喜房仏書林→1987.同朋社.ISBN4-8104-0554-0.A5-277ページ.絶版
     もとは山喜房仏書林から、その後同朋社から増補改訂版として出版されました。私の近所の図書館に常時置いてある(誰も借り手がないようだ)ものは、同朋社の第1版第1刷で、5500円という値段がついています。表紙はクリーム色。
     文法を簡潔にまとめた文典で、語彙はついていますが練習問題はありません。この本はゴンダ文法や辻文法が出た1974年にはすでに絶版になっていたので、当時はゴンダ文法をやってから辻文法へ行くというのが一般的勉強法だったのですが、一通りの文法を終えた人にとっても辻文法が難しいのと、文論をしっかり記述したいというので、絶版となっていた本を増補改訂再刊したという趣旨のことが、まえがきに書いてあります。
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    岩本裕『サンスクリット文法綱要』
    1965.山喜房仏書林.A5-118ページ.1575円(税込).
     上記岩本文法を縮約して118ページにしたもの。逆に岩本文法にない練習問題なんかがついていたりします(答えナシ。そのうち答えを当サイトにのせようかな)。目下もっともハンディな教科書といえるでしょう。岩本文法は入手困難ですがこちらのほうはけっこう仏教専門書店でみかけます。
    ブックマーク=#gngr

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    J.ゴンダ『サンスクリット語初等文法』練習題、選文、語彙付(鎧淳(よろい・きよし)訳)
    1974/1982/1989.春秋社.ISBN4-393-10108-1.2548円(税込).A5-186ページ.
     著者はオランダ人なんで本当はゴンダじゃなくホンダと発音するはずですが、日本ではゴンダという呼び名で通用しているのでゴンダにしておきます。
     私まんどぅーかが初めて手にしたサンスクリットの教科書です。なんと74年に初版が出たときに買いました。それはその後なくしちゃって今持ってるのは最近買いなおしたやつですが(2003.13刷)。
     欧米の多くの大学のみならず日本でも教科書として一番使われている本ですが、春秋社のサイトに「初心者が独学できるように配慮されている」ってあるのはどうかなぁ。だって答えがついてないし、それから文章がけっこう堅苦しいばかりか、誤解を招くような表現もけっこうあるので私はずいぶん苦労しました。82年にちょこっと一部の表現を改めたらしいんですけどね。
     当サイトではゴンダ文法の全練習題と選文の解答例を作成、掲載しておりましたが、練習題の解答例は諸事情あって掲載を休止しております。そのかわり、当サイトの会員制組織「まんどぅーか友の会」で、ゴンダ文法のネット勉強会を開いておりますので、ゴンダ文法で独習をしている人は入会をご検討ください。→入会案内ページ
     なお、これの英語版についてはこちらを参照。
    ブックマーク=#stbun

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    斎藤光純『サンスクリット語初等文法摘要』
    2003.ノンブル社.ISBN4-931117-72-4.3000円+税.A5-205ページ.
     最近出た本ですが、上記ゴンダ文法と内容の関連性が高いのでここに書きます。 ISBNがついてるんで一般書店でも注文できるのかもしれませんが、辻索引と同じシリーズなんで半ば非売品的なところがあります。仏教専門書店だと確実に入手できます。
     著者の斎藤光純先生は長年大正大学でゴンダ文法をテキストにサンスクリットを教えてきて、簡潔だが分かりにくいゴンダ文法を図式化したりしていかにわかりやすく教えるかに腐心なさってこられたとのことで、その成果が形になった本。そんなわけでゴンダ文法のアンチョコとして役立ちますし、ゴンダ文法を離れて単独の変化表集としても役立ちます。ただ、役立つのは名詞・形容詞・代名詞・数詞の変化(いわゆる曲用)までで、動詞の活用のまとめはあまりに簡潔すぎるので、もう少し内容が充実しているとよかったと思います。
    ブックマーク=#sgkj

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    菅沼晃(あきら)『サンスクリットの基礎と実践』
    1980.平河出版社.ISBN4-89203-034-1.2500円(絶版).B6-289ページ+索引23ページ.
     もともとは平河出版社から出ていた雑誌「密教講座」に連載した「サンスクリット基礎講座」という記事で、それに加筆して出した本のようです。ゴンダ文法辻文法しか見たことのなかった私の目には、ずいぶんフレンドリーな文法書に見えました。現在は絶版で、改訂版である『新・サンスクリットの基礎』に内容が継承されています。しかし『新~』が上下2巻となり、詳しくなった反面で、常時上下をそろえていないといけなくなったという不便さがあるので、1冊で間に合う本書は便利かもしれません。古書店で見かけたら買いましょう。なお、韓国でこの本の翻訳が出ています。→こちら
    ブックマーク=#sgbun

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    菅沼晃『新・サンスクリットの基礎』
    上1994/下1997.平河出版社.上=ISBN4-89203-232-8(2900円).下=ISBN4-89203-291-3(3800円).B6-720ページ(通しページ.上は252ページまで).
     上記『サンスクリットの基礎と実践』の、文法を叙述した「基礎」の部分を改訂、上下2冊化して出した本。用法、用例、構文関係は続刊の『サンスクリットの実践』で扱うらしいんですがいまのところ未刊です。つまりこの本は2巻本ではなく本当は3巻本なわけですね。菅沼先生の『サンスクリット講読』が一応3巻目的な内容なんですが、これとは別に3巻目がそのうち出るらしいです。
     練習問題には答えがあります。語彙は巻末にまとめる形でなく、それぞれの問題についてます。説明が親切なんで独習にむいていますが、なれてくると、その親切な説明が逆に冗長に感じてしまうし、2冊化されたことでいつも2冊そろえなければならないのは逆に不便。ここらへんは痛し痒しというところですね。なお、上巻の帯には「サンスクリット文法はこの一冊で充分!」なんて書いてますが明らかなウソです。だって下巻までそろえなきゃ文法が完結しないんだもん。この「二冊」でしょうに。
    ブックマーク=#yamabun

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    山中元『サンスクリット文法入門』~般若心経、観音経、真言を梵字で読む~
    2004.国際語学社.ISBN4-87731-217-X.3000円+税.A5-249ページ.
     この出版社から出ている「古代の歴史ロマン」という、アッカド語とかアラム語とかいうシリーズの6番目に位置づけられている本。 内容的には、前半が文法のまとめで、後半が真言、パンチャ・タントラなどの文学作品、般若心経や観音経といった仏典講読ということになっているのですが……
     うーむ。 悪いけどこの本には肯定的な評価ができません。 残念ながらあらゆる点で中途半端です。
     前半の文法は基本的には変化表の羅列です。 でもそのこと自体はいい。 ただの羅列であっても、しっかり網羅されていれば、斎藤文法とかSanskrit Manualみたいな「虎の巻」として有用な本になるはずですが、 抜けが多数あるのが困りもの。 いちいち指摘するときりがありませんが、とりあえずは「(多くの文法書で最初のほうに出てくる)aで終わる中性名詞の変化表がどこにもないぞ」ということを指摘しておきましょう。
     後半のそれぞれの講読もそれぞれが分量的に非常に短く断片的すぎ、涌井さんの『般若入門』みたいな読みごたえがありません。 唯一役立つのは、涌井さんの本を含めて、 般若心経を梵語で全文収録しているいろいろな本を比較しているところくらいかな。
     そんなわけで、文法書としても、講読書としても中途半端という気がします。
     あとはATOK(ってことは一太郎で原稿を作ったのかな?)のできあいのフォントを利用しているせいなのか、ローマナイズがかなり特殊。 特にヴィサルガをkで表記してるのは私にはなじめません。
    ブックマーク=#ydbun

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    湯田豊『サンスクリット文法』-古代インド語のプロムナード-
    2007.大学書林.ISBN978-4-475-01880-7.9500円+税.A5-451ページ.
     数多くの語学書を出版している大学書林は、意外なことにサンスクリットの本を長らく出しておりませんでしたが、その大学書林から出た初のサンスクリット学習書。サンスクリット文はデーヴァナーガリーとローマ字との併記を貫いているのが一大特徴です。文法順配列なので文典としても使えますし、随所に練習問題(解答つき)があるので独習書としても使えるようになっています。名詞変化に先立ち格の用法を掲げるなどユニークな工夫もあります。
     欠点は、索引や語彙集がついていないこと。文法順なので目次を索引のかわりに使うことができるといえば索引は不要なのかもしれませんが、語彙集がない(巻末の語彙集は基本動詞のみ)というのは致命的欠点と言い得ます。各練習問題の前に新出語彙が一応載っていますが、それだけではなく巻末にも語彙集は必要です。これがないために練習問題の解答が非常に困難になっており、実質的に解答不能になってしまう問題もあります。
     あとは、紙が厚すぎるのでページ数のわりに分厚く、いちいちデーヴァナーガリー併記のため分厚さのわりに情報量が少ないこと。せっかく文法順なので、本来ならば独習を終えたら文法のリファレンス用に使えるはずなんですが、分厚いことと文法索引がないことのためにそれが厳しいのが残念です。
    ブックマーク=#bgngram1

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    平岡昇修『初心者のためのサンスクリット文法 I』CD付き
    2008.世界聖典刊行協会.ISBN4-88110-131-5.2000円+税.A5-395ページ.
     次項、トレーニング方式の入門書として長らく使われている『サンスクリット・トレーニング』の文法説明を文法順に並べ替えた本。そのかわり練習問題は一切なくなりました。ですから「初心者のための」とありますが、初心者がこれ1冊ですませようというには文法説明が簡潔すぎるので、むしろ『サンスクリット・トレーニング』を主にしてこれを文法リファレンスに用いるとよいかもしれません。
    ブックマーク=#katachi

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    上村勝彦 風間喜代三『サンスクリット語・その形と心』
    2010.三省堂.ISBN978-4-385-36465-7.3500円+税.A5-374ページ.
     『バガヴァッド・ギーター』の訳など数多くのサンスクリット文学の翻訳で有名な上村勝彦さんが、『マハーバーラタ』翻訳途中で2003年に死亡。その遺稿を印欧語専門の言語学者・風間喜代三さんが手を入れて出版したものです。風間さんには『ラテン語・その形と心』というラテン語エッセーがありますので、その姉妹本みたいな位置づけにもなっています。どこからどこまでが上村さんの書いたもので、どこからどこまでが風間さんが書いたものか、いまいちよくわかりませんが、たぶん巻末の「サンスクリット語はどんな言語か」以降が風間さんで前半が上村さん。ただし前半もけっこう風間さんが手をいれてるという感じじゃないかと思います。
     帯には「最新・最高のサンスクリット語入門」なんて自画自賛してますし、上村さんは「はじめて学ぶ人たちのために書き下ろした入門書」なんて書いてますけど、サンスクリットしろうとの私にいわせてもらえば、必ずしもこの本やさしくないです。各文法事項のところに文法分析つきで例文が載ってるのは親切なようでいて、サンスクリット特有の連声の説明が不足。そしてその連声法は、文法のあとになっちゃってるんで、ホントのしろうとが見たらポカーンです。
     たとえば、aśva-みたいな-aで終わる男性名詞の単数主格を、aśvasって書いてる本と、aśvaḥって書いてる本とありますよね。要は理論的な形(as)で書くか、実際の語末形(aḥ)で書くかっていう違いに過ぎないんですけど、でもね、上村さんのこの本はaśvaḥって書いてるのに、p.19の(5)のnaroの説明のところで、「-asは、有声子音の前で-oとなる」っていうのはおかしいわよね。これ、文法知ってる人が見たら「ははーん」って笑って素通りできるし、そもそも気づかずに通り過ぎちゃうかもしれないんですけど、初心者が見たらつまづくわよ。風間さんはたぶん「気づかずに通り過ぎ」ちゃったくちね。入門書にするんだったらもっと徹底的に本腰を入れてリライトしなきゃダメよ。入門者はやっぱり菅沼先生の本とかホンダ(ゴンダ)の本で勉強することね。
     随所にある雑学記事はとっても面白いんで、ひととおり文法をやった人のためのエッセーとしては楽しく読めます。だからこれ、上村さんの書いた入門書というより、風間さんの書いたエッセーとしての性格が強いです。(真理子)

  3. 初等文法書(トレーニング、ワークブック式など)
  4. ブックマーク=#hrtr

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    平岡昇修『サンスクリット・トレーニング』
    世界聖典刊行協会.
    1. =1990. ISBN4-88110-065-3.B5-210ページ..2100円(税込)
    2. =1991. 4-88110-067-X.B5-205ページ.2100円(税込)
    3. =1995/2001. ISBN4-88110-085-8.B5-487ページ.3465円(税込)
    4. =1997/2006. ISBN4-88110-130-7.A5-107ページにCD3枚つき.2575円(税込)
     ワークブック、トレーニング方式でサンスクリットを勉強できる、日本語で出たものとしては唯一の本。これをしっかりやれば力がつくんだろうけど、なにぶんにも量が多いので、ずぼらな私は挫折しそうです。それに、従来のように文法体系の順番(つまり名詞の変化をやってから動詞の変化をやる)ではなく、いきなり動詞をやったり、次に名詞にとんだりという構成をとっています。どちらの方法も一長一短あるんだろうけどね。そのうち、うちのサイトで文法索引を作ろうかな?
     なお、IVは音声教材になっておりCDが2種類(3枚)ついています。サンスクリットは死語だから音声教材は不要などと思わず、ぜひ聞いてみることをおすすめします。
     著者の平岡昇修氏のサイト「サンスクリットへの誘い」もご参照ください。
    ブックマーク=#hrtr5

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    平岡昇修『サンスクリット虎の巻』
    2004. 世界聖典刊行協会. ISBN4-88110-128-5. 3000円+税.A5-705ページ.
     上記「サンスクリット・トレーニング」の第5巻にあたるもので、 前半はトレーニングI~IIIの註解や解答なのですが、 後半は「辞典編」として、サンディ表だの動詞活用辞典だの語彙集(英梵、梵和)だのになっているので、 単体でも(つまりトレーニングのI~IIIを持っていなくても)役に立つことでしょう。 ただ、私の希望としては、前半と後半を独立させて、後半の内容をより充実させて、 単なる「サンスクリット・トレーニングの虎の巻」でなく「サンスクリット学習の虎の巻」として充実させればよかったとも思います。
     著者の平岡昇修氏のサイト「サンスクリットへの誘い」もご参照ください。
    ブックマーク=#sndhgr

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    A.ヴィディヤランカール、中島巌(いわお)『サンダハンの入門サンスクリット』
    2002. 東方出版. ISBN4-88591-770-0. 6800円+税.B5-上下各204ページ.
     サンダハンというのは人名なのかと思ったら、インドにそういう名前の教育・文化団体があって、そこで使っているサンスクリット教材を日本人向けにして出したということらしいです。日本でも時々通信講座などをやってるらしいです。
     上下2巻になっていますが1つの箱に入っており、分売不可。語彙集もついてますが途中の課までで、それ以後は姉妹品の『基本梵英和辞典』を使えということです。が、そのあたりまで来たら、一足飛びにモニエルなどを使ったほうがよくないかなぁ?
     最初の2課を除いてすべてデーヴァナーガリー、順序は伝統文法順にとらわれずに名詞や動詞を平行してこなしていくトレーニングブックですが、私はどちらの方針もかなりとっつきにくい気がします。インド人ならともかく、日本人でこのカリキュラムでサンスクリットを身につけた人っているんでしょうか。かなり苦労すると思います。
     下巻のほうになるとかなり高度になり、選文は日本人の好みを反映して、般若心経だの法華経如来寿量品だの、仏教系も多く扱ってくれてます。だから、別の本でサンスクリットを勉強した人が、副読本として使うという使い方のほうがいいんではないでしょうか。

  5. 高度な文法書、文典
  6. ブックマーク=#tjbun

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    辻直四郎『サンスクリット文法』
    1974.岩波書店(岩波全書).B6-331ページ.
     「初級文法を学習し終わった者が努力して理解し得る程度の高度の内容をもつ」(菅文下p.622)、 「著者は「入門書」と称しているが、本書の内容は中級、いやむしろ上級向きである」(上村勝彦。 大修館「言語」82.5 p.93)など、諸氏が口をそろえて難解と評する文典。 でも一通りの文法を終えた人がリファレンス用に使うには非常に便利な本。 次の辻索引とセットで使いましょう。
    ブックマーク=#tjndx

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    Kiyoshi Yoroi(鎧淳)『Index to Prof.N.Tsuji's Sanskrit Grammar』
    1977.豊山原典研究所.B6-275ページ+補遺6ページ.非売品
     英文で書かれているんで「英語の参考書」のところに載せるべきなのかもしれませんが、上記「辻文法」の索引なのでここに載せます。 それにしても辻文法が日本語で書かれているのになんでこれは英語で書かれているんでしょうか。
     非売品ですが2800円で仏教専門書店で売ってます。
     辻文法の序p.viに「索引を極度に簡単にしたことは、著者のはなはだ遺憾とするところである」なんて書いてますが、それを補う存在といえます。 辻文法本体324ページに関する275ページにも及ぶ膨大な索引。 版型も厚さも辻文法と同じなので、仲良く本棚に置いとくことができます。
     「般若」のp.116に「積ん読のまま本棚を飾りがちなこの名著(辻文法)が一転して座右の書となり得る有り難い虎の巻」というふうに賞賛されてますが、 完全にすべての変化形を配列してくれてないんで、 ある程度の実力がないとなかなかそうならないかもしれません。 たとえばdehi(√dāの能動態命令法単数2人称ね)というのをひいてみたら、 dehiにあたる部分にはなく、 dā-のところにまとめられちゃってたりします。 初心者はそういうことがわからんから索引に頼るというのに! まあそれでも、 持っていて損はないかもしれません。
    ブックマーク=#nnbun

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    二宮陸雄『サンスクリット語の構文と語法 印欧語比較シンタックス』
    1989.平河出版社.ISBN4-89203-160-7(4000円).B6-456ページ.
     いろんな文法書が語形変化の説明で終わって、格の用法のような文論・語法がちっとも詳しくないのを補ってくれる本。 「文章論・語法」「例文の文法解説」「他の印欧語との比較文法」「索引」「語彙」と5部構成になっています。 私としては、最初の「文章論・語法」のところだけ切り離せるようになっているとうれしかったな。 ここだけコピーして携帯用にしたいところです。 例文文法解説と語彙集を使ってヒマなときにじっくりと例文を研究すると力がつくんだろうな(やってない)。
     ところでこの人、お医者さんなんですね。
    ブックマーク=#panini

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    吉町義雄(よしまち・よしお)訳『古典梵語(サンスクリット)大文法-インド・パーニニ文典全訳-』
    1995.泰流社.ISBN4-8121-0122-0(48000円+税。 絶版).A5-680ページ.
     パーニニの『アシュターダヤーイー(八章文典)』いわゆるパーニニ文典の全訳です。 モニエルの辞書などいろんな本に、「パーニニの第何章第何節第何項を見よ」なんて書いてあるんで、 ついつい欲しくなって買ってしまいましたが、「見よ」なんていわれてそこを見ても、 たしかにそれらしいことが書いてあるなということがわかるだけですね。 スートラ(お経)つまり項目が列挙されている形で、 これを通常の文法書の形に噛み砕くには学者の手によらざるを得ず、 よほどの文法マニア・研究者でない限り不要だと思います。
     なお、上記の48000円というのは4800円の間違いというわけではありません。 購入には多大の決意がいる値段ですね。 幸か不幸か泰流社が倒産して絶版なんで、仏教系古書店などで入手するしかありませんが、 私が神田の東陽堂書店で入手した値段は15000円でした。

  7. 読本
  8. ブックマーク=#iwdoc

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    岩本裕『サンスクリット読本』
    1957.山喜房佛書林.絶版.A5-106ページ.
     本文(ローマ字のみ)40ページに解題と語彙集がついても全体で106ページにおさまってしまうスリムな読本。7つの文が収録されているほか、ページの埋め草として短い文がいくつか収録されています。内容はマハーバーラタの一角仙人物語(歌舞伎の鳴神のネタ)とかマヌ法典とか碑文など、他の読本にくらべてユニークです。なお、「はしがき」に「編者はさらに引続いて『佛教梵語読本』編纂の準備をしていることを附言しておく」とあり、巻末の広告にも400円という定価が表示されて載っているのですが、結局それは世に出ることはありませんでした。
    ブックマーク=#tjdoc

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    辻直四郎『サンスクリット読本』
    1975.春秋社. 絶版. A5-312ページ.
     語彙集、注釈、そしてちゃんと答え(翻訳)までついた読本なんで独習にはいいのですが、 残念ながら絶版です。 でもいまでも仏教専門書店で6000円程度の値段で売られているのを見かけたりしますので問い合わせてみるといいでしょう。 私が持っているのは1978年の第2刷で、読本部と注釈・翻訳部と語彙部とが別になった薄っぺらい3冊が1つの箱に入ったセット(ページ番号は通し)になっていますが、第1刷は1冊化されていたようです。 それともこの第2刷だけが3冊化してたのかな。
     なお、文章は全部ローマ字です。 ランマンみたいに最初しかローマ字がないというのもどうかと思うけど、 全くデーヴァナーガリーがないってのもどうかな。 文法を覚えるうちは全部ローマ字でいいと思うんだけど、現実のサンスクリットのテキストはデーヴァナーガリーですから、こういう読本をやる段階で少しずつ慣れていくようにせんと。 後半だけでもデーヴァナーガリーにする、もしくは併記するとよかったと思います。
    ブックマーク=#sgkd

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    菅沼晃『増補改訂 サンスクリット講読 インド思想篇』
    1986/1996.平河出版社.ISBN4-89203-115-1.B6-448ページ.3675円(税込)
     語彙集と解答がついたリーダー。すぐに答えがあるので教室では使用できないかもしれませんが、独習には便利です。「インド思想編」とあるのは、今後仏典関係が別に出るらしいです(未刊)。「増補改訂」というのは、最初に出たあとに菅沼文法が大改訂されたので、菅沼文法を参照したりしているところや誤植などを訂正したらしいです。
    ブックマーク=#gnrd

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    J.ゴンダ『サンスクリット 叙事詩・プラーナ読本』テキスト注、文法摘要、韻律考付(改訂・註 鎧淳)
    1995.法蔵館.ISBN4-8318-7071-4.A5-276ページ.3975円(税込).
     ゴンダ文法を終えた人のための読本。ゴンダ文法同様に答えがないうえ語彙集もないので独習はつらい。もともとのゴンダ(ホンダ)先生の本はローマ字だけだったようですが、この日本版は最初のだけデーヴァナーガリーとローマ字を併記、そのあとはすべてデーヴァナーガリーです。まえがきによれば「今日、わが国のサンスクリット語およびインド研究者に期待されている諸般の事情を考慮して」なんだそうです。やっぱり現実のサンスクリットの本はデーヴァナーガリーですから、これは妥当な処置だと思います。それにしても、このデーヴァナーガリーは活字やコンピュータを使ったのではなく、切り貼りで実現、その労力には恐れ入ります。しかもわざわざ、一切の分かち書きを省略したり(語が母音で終わっても分かち書きしない)、よく出てくるイリーガルな表記まで実現したりしておりと、マニアックですね。現実にインドで出版されている本はそうなのかもしれないけど、ちょっと難易度が高いです。
     逆に原著にせっかくあった語彙集が削られてしまったのが残念。「後日、巻を改めて公開の予定である」とありますが、10年たった今でも公開されておりません。こういう読本をやるなら辞書をひけってか? で、次に掲げるような別のリーダーを鎧先生が出しちゃったってことは、このゴンダのリーダーの語彙集の刊行は放棄されてしまったのかもしれません。
     ところで巻末に、ゴンダ(ホンダ)先生への献詞が載ってるんですが、これがオランダ語なんだな。サンスクリットやるのに英語力が必要なのはしかたないし、ドイツ語もベートリンクひくなら必要なんだろうけど、オランダ語まで必要だったとは。鎧先生、訳くらいつけてくださいよ。
    ブックマーク=#nara

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    鎧淳『ナラ王物語-サンスクリット・テクスト、註解、語彙集、韻律考ほか』
    2003.春秋社.ISBN4-393-10155-3.5250円(税込).
     語彙集もついたリーダー。 解答はないけど、岩波文庫から出ている鎧先生訳の『マハーバーラタ ナラ王物語-ダマヤンティー姫の数奇な生涯』(絶版)を見ればいい。というより、この岩波文庫の訳本の原文という意図で出版されたようです。訳本がモトでリーダーがオマケなんですね。
     箱入りのきれいな本なんですが、B5版っていうのはリーダーとしては大きいな。ま、そのぶん活字がやや大きめなので、老後の趣味でサンスクリットやってる人には有り難いのかもしれません。デーヴァナーガリーはよーく見ると行が平行になっておらずナナメになっている行がいろいろあります。ということは上記『サンスクリット 叙事詩・プラーナ読本』同様に、活字やコンピュータを使ったのでなく切り貼りで実現したようですね。恐れ入ります。逆に、英数字や日本語の部分はあきらかにワープロを使っていて、しかもフォントがなかったのか、āのような長母音をâのように山形つき文字で代用していて読みにくかったり、日本語のフォントが明朝でなく教科書体で読みにくかったり、デーヴァナーガリーのところにかけるこだわりとのアンバランスが残念です。
     『ナラ王物語』の最初の部分は、リーダーの定番、ランマンのリーダーにも採録されていますね。ランマンでは入門用ということで、最初はしっかり分かち書きをしていました。語が子音で終わるときは、ふつうその次の語の頭の文字と一体化してしまうんですが、そうじゃなくしっかりヴィラーマ記号を使って分かち書きをしていました。そのような入門者用配慮が鎧先生のこのリーダーでもなされており、1~3章は露骨な分かち書きでローマ字併記、4~5章はローマ字併記ですがデーヴァナーガリーは通常表記、その後はデーヴァナーガリーのみ。で、この「通常表記」ってのが、鎧先生の上記『サンスクリット 叙事詩・プラーナ読本』同様、一切の分かち書きがないんですね。ランマンはいちおう、語が母音で終わるときは分かち書きをするんで、ランマン以上に難易度が高くなっています。

  9. その他
  10. ブックマーク=#pjpm

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    涌井和(わくい・なごむ)『サンスクリット入門 般若心経を梵語原典で読んでみる』
    2002.明日香出版社(アスカ).ISBN4-7569-0618-4.1800円+税
     上記の明日香出版社のサイトでは、なぜか「語学」でなく「ビジネス」-「自己啓発」のカテゴリに入ってます。 最近は朗読CDつきなども含めて般若心経の入門書がやたら出てますが、そういううちの1冊ということなんでしょう。 でもこの本は語学的になかなか面白い。 「サンスクリットは難しいけど、般若心経に限れば中学英語より簡単だ」と主張する著者のこの文章を読んでいると、昔サンスクリットを勉強しかけて挫折した人も、もう一回やってみようかなっていう気にさせてくれます。 妙に勇気を与えてくれる本ですね。 世の中最近は、「冬のソナタではじめる韓国語」みたいな感じで、ドラマ、映画、音楽などから外国語を勉強する人が多いですが、「般若心経ではじめる梵語」っていうのもそういうもんかなぁ。
     なお、サンスクリットで般若心経を朗読したCDをつけた本としては、『般若心経の世界』(中村元監修、丸山勇写真・堀内伸二解説.2004.学習研究社.ISBN4-05-402227-8.2200円)があります。 サンスクリットと中国語と韓国語と日本語。
    ブックマーク=#bonsidh

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    田久保周誉・著、金山正好・補筆『梵字悉曇』
    1981.平河出版社.ISBN4-89203-044-9.2500円+税.A5-246ページ.
     梵字の本は数多く出回っていますが、サンスクリット学習者にも役立つ本というのは意外に多くありません。その数少ない名著の一つ。同名の本もいろいろありますので本屋で探したり注文したりするときは、著者や出版社に注意。
     この本は類書に比べて一番学問的にしっかりしており、単に密教系の悉曇学史だけでなく西欧の梵語・インド学の歴史をもしっかりからめて説明しています。また、さまざまな真言や細かい用語にいたるまでいちいちローマ字のサンスクリットを付しているのが便利です。
     著者の田久保周誉は1944年に名著『批判悉曇学』という全2冊の膨大な本を著していますが、その内容をもう少しわかりやすく、しかし一般的入門書よりは詳しく、というので執筆されたのが本書。しかし完成されることなく著者は1979年に死去。その後を金山氏が補筆して出版されました。
    ブックマーク=#bonjimk

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    児玉義隆(こだま・ぎりゅう)『梵字でみる密教』
    2002.大法輪閣.ISBN4-8046-1185-1.1800円+税.A5-162ページ.
     私が見た梵字の本の中でビジュアル的に一番面白いのがこれ。 塔婆など身の回りの梵字の例が写真もりだくさんで載っていたり、日本の梵字の流派の違いまで説明されていたり、なかなか面白いです。
    ブックマーク=#gitasj

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    『Srimad Bhagavad Gita』
    2006.日本ヴェーダーンタ協会.ISBN9784-931148-32-1.1400円+税.B6-223ページ.
     『バガヴァッド・ギーター』全文のローマ字+カタカナ(!)+日本語訳という体裁の対訳本。宗教団体が無署名で出した本であり、小冊子といってよい規模で安価ながら、全文の対訳というのは非常に便利でお買い得です。なお、この団体では全文朗読CDも売っています。詳細はこの団体のサイトをご覧ください(StoreのCDの項。それにしてもこの本のことがこのサイトのどこにも載っていない(2006年5月20日現在)のはなんとも奇妙)。
    ブックマーク=#uekisps

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    植木雅俊訳『梵漢和対照・現代語訳 法華経』
    2008.岩波書店.上=ISBN978-4-00-024762-7.5200円+税.A5-612ページ.下=ISBN978-4-00-024763-4.5200円+税.A5-647ページ.
     『サッダルマ・プンダリーカ(法華経)』全文のローマ字+日本語訳という体裁の対訳本。梵漢和対照とありますが、漢の部分はクマーラジーヴァ(鳩摩羅什)訳『妙法蓮華経』ですが、原文ではなく大正蔵の書き下し文のみで、いかにもつけたりという感であり、実質的には梵和対照のみといっていいでしょう。訳の注釈が非常に充実していて、サンスクリット文読解の役に立つことでしょう。


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