[補講 by まんどぅーか]

名詞起源動詞 準動詞


  1. ここは頻出です!
     前講でやった意欲動詞も強意動詞などというのは本当にめったにしか出てきません。 そんなものに比べてこちらははるかにいっぱい出てきます。 本来ならもっと早めにやってもよかったほどです。 実はもういくつかぽろぽろと出てきてはいるんですけどね。

  2. 名詞・形容詞を動詞にする
     日本語ではたいていの名詞に「する」をつければむりやり動詞になります。 ウルドゥー語/ヒンディー語でもカルナー(する)をつければ一応動詞になります。 だから動詞を忘れてしまったら、 英単語をインド式発音にしてカルナーをつければ一応通じるというのが、 サバイバル会話としての知恵です。
     サンスクリットにもそういうふうに名詞をむりやり動詞にしたものがあります。 そのやり方は、名詞にをつけて、 現在第10類動詞および使役動詞と同様の活用をさせるというものです。 やはりアオリストは重複アオリスト、完了は複合完了になります。 このように、現在第10類動詞と使役動詞、名詞起源動詞は非常に共通したところがあります。
     これ以外に、名詞に(する)、(なる)、(ある)をつけて、 「〜する」「〜になる」などの意味を表す動詞を作ることもあります。

  3. 動詞を名詞・形容詞にする
     こんどは逆に、動詞を名詞、形容詞にする方法です。 これは「分詞」と呼ばれます。 もうすでに各語幹のところでいろいろ出てきたので、 ここでしっかりまとめましょう。
    種類意味作り方
    能動態現在分詞 〜している 現在(弱)語幹+。 現在語幹の末尾がならばそれを抜かして。 変化はこちら
    反射態現在分詞 〜している 現在語幹+。(1・4・6・10類)
    現在弱語幹+。(その他)。
    変化はこちら (にかわることあり)
    受動態現在分詞 〜されている 受動態現在語幹+
    変化はこちら (にかわることあり)
    過去(受動)分詞 〜された 語根+。 不規則なものが多いのでいちいち覚えたほうがいい。 変化はこちら
    過去能動分詞 〜した 過去(受動)分詞+。 変化はこちら
    能動態未来分詞 〜するべき 未来語幹の末尾のを抜かして。 変化はこちら
    反射態(受動態)未来分詞 〜するべき 未来現在語幹+
    変化はこちら (にかわることあり)
    動詞的形容詞(未来受動分詞) 〜されるべき 語根+。 変化はこちら
    能動態完了分詞 〜した 完了弱語幹+。 変化はこちら
    反射態(受動態)完了分詞 〜した・された 完了弱語幹+。 変化はこちら
     分詞は、分詞→名詞のように名詞を修飾する用法ももちろんありますが、 名詞+分詞で、主語+述語として使われることが非常に多く、 特に英語の分詞構文のように、 「名詞+分詞」を従属節のように使ってしまう用法が多くあります。 主節は一般に動詞を用いることが多いですが、過去分詞は過去の動詞の代用として、 動詞以上にひんぱんに用いられます。
     それから分詞には「〜する人、〜すること」という名詞的な用法もあるので注意が必要です。

     上の表で、過去分詞と動詞的形容詞以外はもうそれぞれの語幹のところで出てきました。 たとえば現在分詞は、現在変化のところで一緒に出てきました。 ここでは残りの、過去分詞と動詞的形容詞をやることにします。


  4. 過去分詞
     もうすでにおわかりと思いますが、過去分詞は本当は「過去受動分詞」です。 後述のように過去能動分詞というのもあるので、 本当はちゃんと過去受動分詞というべきなのでしょうが、 わずらしいので、 当サイトでは過去分詞といったら過去受動分詞のことだという約束にします。
     上にも書いたように、述語的用法で非常にひんぱんに用いられ、 サンスクリットの数ある過去表現の中で一番普通に用いられる形になっています。 過去「受動」分詞であるため、他動詞の場合には受身的に使われるのですが、 自動詞の場合はただの過去表現になります。  その他、もちろん修飾語的用法もありますし、 複合語の成分としても用いられるなど、幅広い活躍をします。
     本編では名詞・形容詞の変化の演習問題にいろいろ出てきたと思います。 語彙集をひくとそのまま過去分詞が載っていましたね。 入門書の語彙集にはたいてい過去分詞が独立見出しになっているので、 辞書では一般に過去分詞はちゃんと独立見出しになっているのかと思ったかもしれませんが、 必ずしもそうではなく、単なる入門者への親切にすぎません。 慣れてくるとだんだん載らなくなります。 当サイトの動詞語幹集には主要な過去分詞を載せていますので活用してください。
     過去分詞は上の表のように動詞の語根から直接作られます。 多くは動詞語根+ないしなのですが、 ちょこちょこと例外があるので、 最初のうちは出てきたらいちいち覚えることです。 英語の動詞の過去形みたいなもんで、 いろいろ例外はありますが、 いくつか覚えていくうちにカンがついてくると思います。
     使役動詞の補講で述べましたが、 過去分詞の形を親切に載せている辞書(独立見出しでなくても語根をひくとその過去分詞が載っている辞書)でも、 使役動詞の過去分詞までは載っていないと思います。 しかしこれがけっこう頻出するので注意してください。 これだけは作り方を覚えておきましょう。 使役動詞のを除いて、をつけて作ります。
     頻度的にはそう多くありませんが、 過去分詞にをつけた、過去能動分詞というのがあります。 こちらは能動ですから「〜した」というふうに訳します。

  5. 動詞的形容詞(未来受動分詞)
     上の表で、受動態の未来語幹にをつければ「受動態未来分詞」ができると書きましたが、 これは理論的なことで、そんな形よりはるかに頻出するのが未来受動分詞です。 「〜されるべき」という意味を持ち、修飾語的にも述語的にもひんぱんに用いられます。 「される・べき」なので未来受動分詞という言い方が一番わかりやすいかもしれませんが、 普通の未来分詞と区別が付きにくいので、「動詞的形容詞」という言い方もよくします。 ただ、動詞&形容詞ってことなら、分詞はすべて動詞的形容詞になっちゃって、 これもわかりにくいんですけどね。 このほか、義務分詞という言い方もあります。 英語では gerundive(ジェランディブ)といいます。 学問の世界ではジェランディブが一番多いかな? 当サイトでは動詞的形容詞、略すときは「動形」などと書いたりしています。
     未来語幹など用いず、語根から直接作られるのですが、 その作り方に大きく3種類あり、 一つの語根から数種類の動詞的形容詞ができることもあり、 混沌としています。 一番多いのが、語根の母音をグナにして、をつけるものでしょうか。 そのほかという接尾辞も使います。

  6. 不定詞
     以上の分詞は、もとは動詞ですが形は形容詞になるので、 語尾の形に応じて形容詞的変化をしていきますが、 これから説明する不定詞と絶対詞は、 これ以上まったく変化はしません(もちろん必要に応じてサンディはします)。
     まずは不定詞。英語では infinitive(インティニティブ)といいます。 学問の世界でもインフィニティブと呼ぶことが多いと思います。 英語ではけっこういっぱい出てきますが、 サンスクリットではあまり出てきません。 「できる」「したい」などの意味を持つ動詞や形容詞とともに用いるのがほとんどです。
     作り方は、語根の母音をグナにして、ないしをつけます。 これは上の動詞的形容詞の型と同じなので、 Bucknellの『Sanskrit Manual』の動詞語幹一覧表では、 動詞的形容詞ををつけて作る動詞については、 不定詞の欄にFという印をつけて、 「この形のの代わりにをつけると動詞的形容詞になるよ」という省略表記をしているほどです。

  7. 絶対詞
     日本語でも「本を見て学んだ」というふうに二つ動詞を重ねるとき、 前半では「た」のような文法的な言葉を省略してしまいます。 サンスクリットは日本語よりもはるかに偏執狂的に語形変化をする言語ですが、 やはり「こうしてこうしてああした」というとき「こうして」の部分は、 語形変化をしなくても文法的機能が明確になるので、 語形変化を省略してしまいたいものです。 こういうときに使うのが絶対詞。 「〜して」「〜して後」などという意味を持つ語形で、 一切の語形変化をしません。
     文法書によっては「絶対分詞」と書いてあったりしますが、 他の分詞と違って形容詞的になるわけではなく(だから形容詞的語形変化もしない)、 変化をしないわけだからいわば副詞になるわけですかね。 そういうものも分詞というならばこれも分詞なのでしょうが、 他の分詞と性格が違うので、当サイトでは「絶対詞」と呼ぶことにします。
     英語ではabsolutive(アブソリューティブ)といいます。 このほかgerund(ジェランド)という言い方もあるのですが、 動詞的形容詞(未来受動分詞)のgerundiveとものすごく紛らわしいので、 absolutiveのほうが普通だと思います。
     作り方の大原則は、
    1. 動詞前綴りのない動詞……過去分詞からを抜いてをつける。
    2. 動詞前綴りのある動詞……弱語根にをつける
    です。が、例外があったり複数の形が共存する動詞があったりするので、 これも出てきたら覚えていくことにしましょう。 もっとも読解をするだけなら、を見たら絶対詞と思えばすむので、 比較的見分けやすいと思います。

  8. 次講の補講は省略
     次講の造語法に関する補講は省略します。 接尾辞を列挙して意味を書いたとしても無味乾燥なだけですし、 実際には接尾辞の意味からはかなりかけ離れた語ができることもあるので、 辞書で確かめねばならないですから。
     女性形を作る方法も、名詞・形容詞の変化のところで出てきましたので略します。