パンチャタントラ1-5(5/9)
ヴィシュヌに化けた織工

さてある時、王女の下唇にサンゴのような傷があるのを侍従たちが見て語りあった。
「おお、この王女の体が男にもてあそばれたようだ。いったいどうして、よく警備されているにもかかわらず、宮殿内でこのような事態になったのか。これを王に報告しよう」
このように決断して、侍従全員が集まって王に言った。
「王よ、私たちが気づかないうちに、よく警備された王女の王宮に誰かが入りました。ご決定は王様におまかせします」
それを聞いて王は非常に心ガ混乱し、王妃がひとりでいるときに言った。
「王妃よ、彼ら侍従たちが何を言っているか知りなさい。こんなことをしでかした男には死神も容赦しないだろう」
王妃もまたそれを聞いて混乱し、急いで行って、王女の唇が傷つき、両手両足や体じゅうに爪の傷がついているのを見た。そして言った。
「ああ、ふしだらな女よ、一族の面汚しよ、どうしてこんな美徳をそこなうことをしたのか。お前の近くにやってきて、死神に目をつけられるような悪いことをしたのはいったい誰なのか。いずれにせよ、ともかく真実を話しなさい」
それを聞いて王女もまた、恥ずかしくて顔を下に向けて、ヴィシュヌの姿をした織工の出来事の一切を告げた。王妃もまたそれを聞いて、笑った顔で、喜びで全身の毛を逆立てて、急いで行って王に言った。
「王よ、幸いなるかな、栄えあれ。夜な夜な聖なるナーラーヤナ(ヴィシュヌ)が王女のところにやって来るのです。ヴィシュヌは自由恋愛結婚で王女をめとったのです。そこで今夜は、あなたと私とで露台に行って見ましょう。なぜならヴィシュヌは人とは会話をしないですから」
それを聞いて喜んだ王は、その一日をまるで百年間であるかのように過ごした。

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