サンスクリットの勉強で初心者がつまづきやすいポイントは数多くあるが、この「絶対語末」こそはその典型ではないだろうか。
まんどぅーかが最初に使ったテキストはいわゆるゴンダ文法であるが、そのp.12には、
| 絶対語尾(すなわち、文または詩の行の終わりにある語の末尾) |
なんてあるものだから、本当に文の末尾や詩の行の末尾に限られるのかと思ってしまった。
訳者の鎧先生の名誉のためにいうと、英語版でも
| absolute final position ...(中略)... the final position of a word at the end of a sentense or verse |
とあるので、たぶん原著(ドイツ語)の表現もそうなのだろう。
そのくせこの絶対語末というのは文末どころか頻繁に登場する。
早い話が単語の末尾はみんなそうだし、複合語の各語末とか、
名詞変化のいわゆるpada語尾(両数の    みたいに子音で始まる語尾)のところでも、
いったん絶対語末形にしたうえで外連声をすることが多い。
だからイイカゲンに「語末」と書いてくれたほうが、
逆に初心者はつまづくことがなくて親切だと思うんだが。
念のため主要な文法書でどう説明しているかを調べてみた。
- 榊文法p.7……一語の終。
- 荻原文法p.6……語尾。
語の終。
- 岩本文法p.22……休止位置。
- 岩本綱要p.3……休止位置。
- 辻文法p.17……絶対語末(例えば文の最後の位置)
- 菅沼文法旧著p.28……休止位置(絶対語末。
たとえば文中の最後の位置)
- 菅沼文法p.51……文章や詩の行の最後に置かれる語の末尾、および表題などの単独で用いられる語の末尾を絶対語末(休止位置)という。
こんなふうに、昔の文法書では比較的アバウトな書き方をしていたものが、
最近になってだんだんうるさく言われるようになった。
日本の参考書の出版年度でいえば、ゴンダ文法と辻文法こそがそのキッカケになっているようである。
サンスクリット文内の各語は、「さまざまな語形変化」→「末尾を絶対語末形にする」→「連声法を適用する」というプロセスになるので、
現実的には、「絶対語末の形=連声前の形」というふうにさらっと扱ってしまうのがいいように思う。
早い話が、当サイトのゴンダ文法解答例などのページの「連声前」の形がそれである。
ところで、絶対語末には と は立たず、
どちらも になってしまう。
だから文法書の変化表などは、 の形で載せないといけないはずであるが、
意外に や のままにしている本もある。
私の場合でいえば、最初に見たゴンダ文法が , 式、
次に見た辻文法が 式なので大いに面食らった。
このあたり、いろんな文法書がどっち式を採用しているかだが、これは、 , 式が圧倒的に少数派なのでそれをあげるのが手っ取り早い。
日本語の本でいえば、榊文法とゴンダ文法ぐらいのものである。
ゴンダ文法の虎の巻的存在である斎藤文法がこの点でゴンダ文法と異なる流儀を採用しているのが面白い(というかまた新たな混乱のネタが……)。
英語の本では、ペリーのサンスクリット・プライマーやホイットニーの文典が , 式だ。
上述のように絶対語末形は「連声する直前の形」であり、語形変化表は絶対語末形にして載せるのが原則である、という考えにたてば、 式を採用するべきであろう。
しかし私は、この点に関しては , 式のほうが便利だと思うので、当サイトでもあえて 式でなく、少数派の , 式を採用している。
というのは、 と を にまとめてしまうと不都合な点が一点あるからである。
と とでは一点だけ連声規則が異なるのだ。
具体的には と のとき。
表にまとめてみよう。
連声前 |
元が |
元が |
  
|
  
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|
  
|
  
|
 
|
  その他の母音
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  母音
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 母音
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  その他の有声子音
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  有声子音
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 子音
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  有声音
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  有声音
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 有声音
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このような事情があるので、 と に関しては、 にまとめたりせず、もとのままで変化表に載せておくのが便利だと思う。
そこで当サイトでも , 式を採用するので、ゴンダ文法以外の文法書を使っている人が当サイトを見るときは注意してもらいたい。
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