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ナスターリーク体の書き方入門
Since 2005/8/3 Last Updated 2005/9/5
ウルドゥー語の表記に用いられるアラビア文字のナスターリーク体(ナスタリーク体、ナスタアリーク体などと書かれることもあり。以下「ナスターリーク体」に統一)は、流れるような行書体で、見た目にはとてもきれいですが、かなり特有のクセがあるので書くとなると大変です。楷書にあたるナスフ体のほうが書きやすいし、日本で出ているウルドゥー語の参考書はナスフ体を使っていることが多いので、ついついナスフ体で書いてしまうという人は多いのではないでしょうか。特にアラビア語やペルシア語をかじったことのある人ならなおさらでしょう。 しかし、ナスターリーク体とナスフ体とではかなり見た目が違ってしまう語がけっこうあります。特に系の字の語中形を用いた語はそうでしょう。たとえば「子供」(複数)などは、ナスターリーク体ではですが、ナスフ体ではとなってしまいます。ここまで見た目が違うと読みにくくてしょうがありません。 やはりノートなどに文字を書くときにも、ウルドゥー語の新聞・雑誌・書籍・WEBサイトに用いられているナスターリーク体っぽい文字を書きたいものです。 ところがナスターリーク体の書き方を説明している参考書はなかなかありません。teach yourselfから出ているBeginner's URDU scriptは、たしかにナスターリーク体を用いた、文字の書き方の練習教材にはなっています。しかしこの本も、他のアラビア文字を使う言語の入門書と同様に、各字母の語頭形、語中形、語末形、独立形を説明するのみに終始しています。 ナスターリーク体は、単に各字母の語頭形、語中形、語末形、独立形を覚えれば書けるというわけではありません。たとえばの語頭形ひとつとっても、、、、、のように、次に来る文字によってけっこう形を変えます。こういうところをちゃんと書き分けないとナスターリーク体は書けないのに、このことをしっかり説明した本は(少なくともウルドゥー語の入門書には)ありません。 そこでここでは、次に来る文字によって各字母がどう形を変えるかを中心に、ナスターリーク体の書き方をまとめてみます。 まんどぅーかはアラビア文字の書道をやったことはありません。書道の専門書も見たことはありません。あくまで印刷物のナスターリーク体を私なりにじっくり観察して得た法則をまとめただけです。書道の専門家からすればおかしなところがいろいろあることでしょう。しかしここでは、カーティブ(アラビア文字書道家)を志そうというのではなく、あくまで日常の勉強の過程でノートなどに文字を書くときに、ナスターリーク体っぽい文字を書いてみようという人のためのものです。 逆に、文字の書き方の基本はあまり詳しく書いていません。それは「ウルドゥー語の文字」を見てください。一応はアラビア文字の書き方はわかる、だけどいまいちうまくナスターリーク体が書けない(実はまんどぅーかもそう)、という人に照準をあてています。 ナスターリーク体は見てのとおり右上から左下にナナメに流して書くというのが大原則です。だから文字が連続すると行の幅がかなり太くなります。たとえばを20個つづけたらこんな感じです。 幸いにして、現実に出てくる語にはこんなものはなく、数文字続けばかならず語が切れるので、無限に太くなることはありません。もっとも「理解するだろう」ぐらいに太くなってしまうことはありうるので、長く続くような語はあらかじめナナメの度合いをセーブしたり、各字母を小さめに書いたりする工夫が必要な場合があります。 もちろん、「語が切れる」とは、論理的な1語が終わるというだけではなく、、系、系、といった「左に続かない文字」が来る場合も含みます。このような文字が来たらの冒頭のとのように、思い切ってズラしてしまってかまわないわけです。でないとナナメになりません。 ナスフ体ではのように「系やなどは中心線より下に書く」といった、各文字の開始位置の違いがありますが、ナスターリーク体にはそんなものはありません。そんなことを言ってたらナナメになりません。語が切れたら平気で上から書いてしまいます。の最後のは、ナスフ体なら中心線より下に書きますが、こんなふうに堂々と上から書いていいわけです。だからもみたいになり、各字母の区別がつきにくくなるわけです。 語と語の間には空白はできる限りあけないようにします。もちろん語が変われば語頭形にはなりますがそれだけです。英語のように空白をめいっぱいあけてしまうと非常に間延びした感じになってしまいます。 また、「左に続かない文字」が語中にある場合には、当然語中であっても空白ができてしまいます。それは単語と単語の間の空白と区別しません。ナスフ体で印刷された本のなかには、「左に続かない文字の次の空白は小さく、語と語の間の空白は大きく」しているものがありますが、そんな配慮は不要です。かえって間延びしてしまいます。 日本語や中国語やタイ語などと同様、そして昔のサンスクリットと同様に、「空白は一切あけないのだ」と考えたほうがいいのかもしれません。 他の書体と同様に、各語はまず本体の線を書いてから、点を書いていきます。もちろん母音記号なども後です。たとえばの点は、この語の本体の線をすべて書き終えてから打ちます。それぞれの文字を書いたあとにいちいち打ったりすることは普通ありません。 もっとも、左に続かない文字が来たら、そこまでの点を打ってしまいます。のの点は、を書き始める前に打ってしまいます。 ここでいう点とはもちろん点の形をしたものだけでなく、の型記号や、のようなの下のコンマみたいな記号も含みます。また、やの上のナナメ線部分(赤字部分)もそうです。たとえばの冒頭のの2つのナナメ線は、を書いてから書きます。手書きの文字ではこのナナメ線は、本体の線と離れていることも珍しくありません。次の例を見てください。 やのように、の前の部分の文字の下の点が、のさらに下に打たれることがあります。これはの項でまた触れます。 以下、各字母の書き方を説明します。各字母の独立形、語頭形、語中形、語末形に関してはもう先刻承知のこととして話を進めます。よくわからない人は「ウルドゥー語の文字」を見てください。 「口上」で述べたように、次にどういう文字が来るかで微妙に形を変えるものが多いので、各字母について、語頭形と語中形の次にあらゆる文字をつけた図を掲げます。語末形がどうなるかは、その前の文字の表を見てください。 ということは、、系、系、系、のように、次に続かない文字の表はありません。これらの文字の書き方は、その前の文字の表を見てください。 結局はこれらの図を一つ一つ書写練習するしかないのですが、ある程度法則化できそうな場合は説明文中に書きます。 各字母は点の有無や数を除いてまったく同じ形をしたものが多く、そういったものは一括してそれぞれ「〜系」という名前をつけます。たとえば「系文字が次に来たら…」とあったら、それは、、、、が来ても同様だということです。
語頭形が「立つ」場合 語頭形を見ると、異様に高く立っているものがあります。具体的には系、系、系、系、、、、、がついたものです。 うまく法則化できないのですが、よく見ると系、、以外は、みんな丸っこい文字が次に来ています。「丸っこい文字が来ていると語頭形が立つ」ということがいえそうです。 「丸っこいというならやだって丸っこいじゃないか」と反論されそうですが、実は筆順にポイントがあります。は反時計回りに書きます。は一応時計回りですが、「下(右)半分時計回り→上(左)半分時計回り」です。これに対して上であげた「丸っこい文字」はみんな「上側に時計回りに丸を書く」という特徴があります。 しかし、「立つ」のは語頭形だけで、語中形はちょっとトゲが出る程度になっています。 語頭形が全く「立たない」場合 語頭形の中で、まったくカギもトゲもなく、いきなり横に筆を動かすものがあります。具体的には系、、がついたものです。「の語頭形はカギを書く(縦に筆をおろす)」という考えが頭にこびりついていると、これはかなり抵抗があると思います。何回も書いて慣れましょう。
語頭形に関しては特に注意する必要はないでしょう。語頭形は鳥が左に向かってクチバシを開いた形といえますが、よーく見ると次の文字によって微妙にクチバシの開け方が違います。しかし、これをやぶったからといってそう見た目が悪くなるわけではないので、気にする必要はありません。ただし、次が、、のときに、クチバシが閉じてしまいます。これはきちんと守ったほうがいいかもしれません。 語中形はナスフ体とまったく異なります。ナスフ体は×印ですが、ナスタリーク体ではZの反転のような形になります。S形といったほうが早いかもしれませんが、カドがとがっているのが特徴です。 上の表では語中形は前にをつけた形しか載せてませんが、の語中形は、前の文字からのつながり具合もうまく書きにくいところです。ですからこんどは、次をに統一して、前の字を変化させてみましょう。次を見てください。 前が系の場合、のところで書いたように、語頭形が「いきなり横」になります。語中形の場合はトゲが現れません。ちょっと凸形にカーブさせて点だけを書く要領です。例:。。
あまり露骨に波を書かないということに注意すれば、形の上でそう気にする文字ではありません。 独立形や語末形のにはおわんがあるのが特徴ですが、では次にが来た形とどう区別するのでしょうか。これについては系の項を見てください。
系同様に、独立形や語末形と、次にが来た形との区別という問題があります。やはり系の項を見てください。
語中形は頭をツブして書くこと。でないとの場合に、と紛らわしくなります。もっともこれはナスフ体でも同様ですが。
語中形はツブさずにマルを気持ち大きめに書くこと。でないとと紛らわしくなります。もっともこれはナスフ体でも同様ですが。
次にやが来ると、煙突がくるっと丸くなります。このことはウルドゥー語の入門書には必ず書かれていることですが、ナスフ体を使っている入門書ではあまり違いがわからず、「何でそんな細かい注意を!」と思うところです。が、ナスターリーク体ではその差が歴然ですね。 また、ナスフ体では「く」のような形になるので次の文字との間に一定の横線が必要になりますが、ナスターリーク体では次の文字との間をできる限り開けないようにします。特には、煙突の真下でマルを書きます。だから読むときにはうっかり見落とすことが多いです。
基本的には「J」形なのですが、次に来る文字との間にあまり横に流れる部分を作らないこと。特に系やなどが来た場合にはほとんど縦画しかありません。「縦棒だけを書く。ただしと違って次とつなげる」くらいに考えたほうがいいかもしれません。
ただし、そのマルの書き方が大問題。独立形は時計回り、それ以外は必ず必ず反時計回りに書いてください。どっちでもいいじゃないかと思っていると、うまく書けません。上の表の語中形のいくつかにも、反時計回りに書いている特徴が明瞭にあらわれています。下方(ナナメだから右下方)にとがっているでしょう。「が時計回りに上方にとがって書くのに対し、は反時計回りに下方にとがらせる。しかも小さめに」というふうに考えるといいかもしれません。 系同様に語中形の表を用意しました。やはり次をに統一して、前の字を変化させてみましょう。次を見てください。
との区別 の独立形や語末形は、波を書いたあとに大きくおわんを書くのが特徴です。ところがおわんといえば、鼻母音表記のもあります。そこで(+)とを注意して書き分けねばなりません。 違いがわかりましたか? 単独のは、波→すぐにおわん、のほうは、波→ちょっと持ち上げて→おわん、です。 ちなみに、(+)は、と書きます。と見比べてみてください。のほうは波→ちょっと横→おわん。持ち上げがありません。一般に、とは点の有無しか違いがないはずですが、この場合は微妙に異なるというわけです。 同種の問題がでも起こりますが、こちらはととの間に持ち上げをせず、ちょっと横に伸ばすだけです。そしてを接続した場合とは、単に点の有無の違いだけになります。ややこしくなってきましたね。まとめると……
まず語頭形は、次に来る文字によってけっこう違った形になります。これはおおむね系に対応しています。つまり、 語頭形と語中形のコンマは、ウルドゥー語式のコンマ、つまり英語のコンマと向きが逆になります。 語末形も意外に書きにくいものです。すでに他の表に出てきているのですが、再度まとめましょう。 要するに、ちょっと山形っぽいものをスッと流すように書くのですが、あまりにさりげないので逆に書きにくいところです。一通り書いて練習するといいでしょう。
この文字に関しては、いままでの文字と順序を組み替えて説明しましょう。 まず筆順が問題になります。まず次を見てください。 次に、もうすでにいろいろな表に出てきているのですが、前の字からのつながりを見てみましょう。前の字は限られており、次の3系しかありません。 いよいよ他の文字と同じように、次へのつながりをまとめてみましょう。前にをつけてみました。
それから、単独のハムザの場合、語頭形と語中形ではハムザの乗る台が必要です。その台の書き方は系に準じます。
この文字は唯一、左から右に向かって逆流する字形ですが、前の文字の下に点などの記号がある場合(以下「下点文字」と書きます)、その点をこの「逆流」の下に書くという特徴があります。まずは次の表を見てください。 では、「前の文字」とは直前の1文字だけなのでしょうか。そうではありません。最上段で1つ空白があって左3つを見ると、その前の下点文字の下の点をも逆流の下に打っています。組み合わせによっては非常にごちゃごちゃしてしまいます。ただし、の下のコンマは、逆流の上に打っています。を除いて、同一語(連続)内での前にある下点文字の下点は、すべて逆流の下に書くという原則がありそうです。 では本当にそうなのか。上表の中段と下段を見てください。これは、下点文字の代表としてをとりあげ、それに何か文字(左に続かない文字を除く)がつき、さらにがついたときの図です。 このように、ほとんどの場合、途中に別文字をはさんでも、下点文字の下点は逆流の下に打っています。が、例外として、系、、の場合は、逆流の上になっています。よーく確認してください。 なお、わずらわしいので省略しましたが、のかわりにももちろん、も同様です。ただし上述のように、のコンマのみは、の直前の場合のみ逆流の下、そうでなければ逆流の上です。 |